Vortex Bladeless社

ユニークな設計で実現した羽根なし風力タービン

風力タービンと聞いて思い浮かべるものといえば、2~3枚の羽根が風を受けて回転する、背の高い風車ではないでしょうか?スペインのVortex Bladeless社は、その常識を覆そうとしています。

同社が開発した風力発電機“Vortex Bladeless”の特徴は、羽根がない点です。社名を冠したこの装置は、空気流れの不安定現象を利用して発電します。

Vortex Bladeless社は、この画期的な風力タービンのプロトタイプを数年前に製作しました。開発期間とコストを抑えるために、有限要素解析(FEA)および数値流体力学(CFD)ソリューションを利用して設計・開発プロセスを改良しました。

風力タービンとは

水平軸を中心にして羽根を回転させる従来の風力タービンは、一般的に制御システムと羽根を搭載したタワー型の構造物です。風を受けて羽根が回り、発電機に接続されたシャフトが回転することによって電気が生まれます。

風力タービンの大きさは様々で、ウォーターポンプなどの小規模な用途に用いられる100 kW以下のタービンから、ウィンドファームなどの大規模なプロジェクト用の100 kW~数MWのタービンまであります。 風力タービンの設置には、建設、インフラ、保守、輸送といったコストが発生します。家庭向けの小型風力タービンの設置費用は、発電容量1 kWあたり約7,000ドルですが、大規模な商用風力タービンの場合、発電容量1 MWあたり100万ドルにも上ります。

国際的な事業者団体である世界風力会議(GWEC)によると、現在、風力発電産業は全体的に成長しています。成長の背景には、気候変動、風力・太陽光発電テクノロジーの価格低下、アメリカ市場の安定、アジアなどの地域における風力発電産業の発展などがあります。

GWECの試算では、2030年までに風力発電の発電容量は2,110 GWに達し、世界の消費電力の20%を賄えるようになると予測されています。それに伴い、新たに240万の雇用が創出され、CO2排出量は33億トン以上削減される見込みです。

発想の転換

Vortex Bladeless風力発電機は、従来の風力タービンに取って代わるソリューションです。円柱状の柱が風を受けて振動することで、リニアオルタネーターシステムが作動して電気が生まれます。地面に固定するマストに発電機を搭載し、その上に半硬質繊維ガラス製の中空構造の軽量シリンダーを載せた構造です。

外側の円錐状のシリンダーは非常に頑丈で、下部をロッドに繋いだ状態で揺れ動く設計になっています。シリンダーの上部は固定されていないため、風を受けると振動します。内側の円柱状のロッドは、長さの最大20%分をマストに挿入することで地面と固定し、上部はシリンダーと繋ぎます。

この発電機は、“渦放出”と呼ばれる空気力学的な現象を利用します。丸みを帯びたシリンダーの周りを風が通過すると、空気の流れが変化し、空気の渦が周期的に発生します。この渦の力が十分に強ければ、シリンダーが振動を始め、風の横力と共振します。このように空気を受けて物体が不安定になることを、渦誘起振動と呼びます。

羽根なし風力発電機は、この渦誘起振動の発生を抑えるのではなく、逆に利用することによって風のエネルギーを捕捉します。

渦放出(丸みを帯びた物体の周りを風が通過するときに生じる空気力学的現象)のシミュレーションにはAcuSolveのCFDテクノロジーを使用しました。渦放出で生まれる横力によって円筒状のタービンが振動し、リニアオルタネーターが“作動”して発電する仕組みです。

振動を理解する

“渦が列を成す”現象は、空気力学の先駆的な理論研究者セオドア・フォン・カルマンが、1911年に初めて解明しました。この現象は、層流内に固定された物体に横風が吹き付けることによって生じます。

風が物体を回り込むように流れることによって渦が周期的に発生するこの現象は、塔、マスト、煙突といった縦長の柱状構造物の設計につきまとう悩ましい問題です。構造物が振動を始め、風の横力と共振すると、最終的に崩壊する危険性があります。この現象の有名な事例としては、1965年にイギリスのポンテフラクト付近のフェリーブリッジ発電所で冷却塔3塔が崩壊した事故や、1940年にアメリカのワシントン州で起きたタコマナローズ橋の崩落事故があります。

Vortex Bladeless社のエンジニアは、この現象を逆手に取り、新たな発電方法を編み出しました。同社は、様々な風速の渦発生周波数と共振する固有周波数を持つ、新しい風力発電機を開発したのです。 振動の固有周波数を決定するのは、質量(質量が大きいほど固有周波数は低くなる)と剛性(剛性が高いほど周波数は高くなる)です。Vortex Bladeless発電機は、その直径、高さ、合計質量を含め、実際の平均風速においてパフォーマンスが最大になるように設計されています。

さらに、その時々の風速で発電量が最大になるよう、構造体の剛性が変化する仕組みになっています。ロッドの上端部に永久磁石を付け、磁力で揺れを封じ込めることで、たわみの度合いを抑えて構造体の見かけの剛性を高めます。

風力が強くなると、磁石の反発力が上がり、それによってロッドと磁石の距離が縮まります。その結果、振動と発電容量が最大限に高められます。このように剛性を自動的に変化させ、風速と“同期(ロックイン)”させることにより、機械的または人的な介入をすることなく振動し続けることができるのです。

Vortex Bladeless発電機は、渦力学に適応した、コイルと磁石から成るオルタネーターシステムで発電します。接触する歯車や可動部品がないため、摩擦が生じません。Vortex Bladeless社の試験では、従来の回転式オルタネーターの70%~85%の電気変換率を達成できたといいます。

計算モデル

発電効率の優れた装置を開発するために、Vortex Bladeless社のエンジニアは、Altairの協力を得て計算モデルを作成しました。Altairは、開発期間中にわたってVortex Bladeless社のエンジニアにサポートとトレーニングを提供しました。

両社の提携は、風力発電機の空気力学的挙動をシミュレーションするという技術プロジェクトからスタートしました。Altairのエンジニアは、数値流体力学(CFD)ソルバーのAcuSolve®と、線形・非線形構造最適化ソフトウェアのOptiStruct®で流体-構造連成解析を行いました。コンピューター支援エンジニアリング(CAE)モデルを使うことで、様々な風力下での発電機の挙動を予測することができました。さらに、Vortex Bladeless社のエンジニアは、HyperWorks Virtual Wind TunnelTMで構造物の外部流体解析を実行しました。

最近では、オルタネーター設計や発電機形状の最適化などにも取り組んでいます。形状の改良により、風の運動エネルギーの40%を捕捉できるようになりました(これは従来の風力タービンと同等の捕捉率です)。ベッツの法則によると、風から取り出すことのできるエネルギーの限界値は、風力タービンの設計にかかわらず、風の運動エネルギーの59.3%です。

Vortex Bladeless社のCo-CEO of Technologyを務めるDavid Yanez氏は、「シミュレーションなしでは、製品開発にもっと時間がかかっていたと思います。試作機の数もはるかに多くなり、コストもかさんでいたでしょう。Altairのソリューションは当社のニーズに合っていると確信しています。それはソフトウェアの機能に限らず、この提携を通じて提供していただいているAltairの大変貴重なサポートについても言えます。製品の仮想実験を1つの目標と考えていたので、Altairのソリューションが日々の業務に大きな影響を与えていることは疑いようがありません」と語ります。

イノベーションの好例

Vortex Bladeless社の開発チームは、この画期的な風力発電システムにはいくつもの長所があると自負しています。中でも特筆すべきはコストです。最終完成品では、従来の風力タービンから製造コストを53%、運用コストを51%削減できる見込みです。

それに加え、摩擦によって摩耗や損耗する機械部品が設計段階で排除されているため、同社の試算では、従来の風力タービンから保守コストを80%削減できるといいます。

Vortex Bladeless発電機の運用コンセプトによれば、以下のことが可能になります。

  • 風向きが最適になるように設置方向を調整する必要がない。
  • 風下側の空気流れが乱れる“シャドウ効果”に関連した制約を低減できる。従来の風力タービンでは、シャドウ効果を避けるために一定間隔を空けて設置しなければならない。
  • 鳥類の生態系への悪影響を最小限に抑制できる。
  • 作動音がなくなる。発電機の振動周波数は20 Hz未満のため、騒音がほとんど発生しない。

Vortex Bladeless社は、目下、アフリカやインドなどでの運用を想定した、発電容量100 Wの初期製品を設計中です。ソーラーパネルと併用する4 kWタイプや、大規模な風力発電のための1 MWタイプの開発も計画しています。

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