AltairとNolato社[1]が最近共同で取り組んだNolavaの設計プロセスをご紹介します。Nolato社は、様々な産業機器および医療機器用の射出成形品のエンジニアリングを世界的に手掛けているスウェーデンの企業です。
そのNolato社が提供するオートインジェクターNolavaは、射出成形した繊維強化プラスチック製ハウジングに複雑な電子機械を収納した医療機器です。この自己注射器の設計に、シミュレーション主導の設計(Simulation-driven Design)を可能にするAltairの最先端の統合型ソリューションを応用し、設計プロセスの初期段階で仮想試作を行いました。これにより、実機試作や製造用の工具を製作する前に問題点を解決し、時間と費用を節約することに成功しました。
製品に求められる要件
オートインジェクターは、生命維持の薬剤を注射するために世界中の大勢の患者が毎日使用しているものです。医学的な訓練を受けていない人が、たとえば糖尿病用のインスリンなどを自宅で注入するために使用します。製品を構成するのは、射出成形した短繊維強化プラスチック製ハウジングと、そこに内蔵された電子機械および電池です。オートインジェクターは内部に格納された皮下注射器のプランジャーを、制御しながら確実に押し下げることで薬剤を注入します。したがって、毎回確実に1回分の薬剤を安全に注入できることが求められます。また、繰り返し使用できる耐久性と落下や誤使用によって破損しない堅牢性も必要です。
仮想製品開発のシミュレーションサイクル
薬剤注入システムの機能:数値流体力学(CFD)解析とマルチボディダイナミクスの連成により、プランジャーへの圧力(皮下注射器の針の外径と薬剤の粘度から算出)、ハウジングと部品間の接合部に生じる荷重、機能や漏れへの温度の影響を調べます。
検証 – 正常使用時および誤使用時:シミュレーションにより、装置の性能が所定の仕様要件の範囲内に収まるかどうかを確かめます。仮想落下試験または仮想過荷重試験を実行し、材料の変更、クリップの強化、接着剤によるケースの部品同士の結合など、改善が必要な箇所を洗い出します。
最適化:定義した荷重ケースに基づいて必要十分な材料の配置を明らかにすることで、構造特性の最適化、軽量化、さらには材料使用量の削減につなげます。Nolavaプロジェクトの場合は、パートレベルのリブ構造の代替案を調べつつ、あわせて各設計案の比較と性能検証を素早く行うことで、アセンブリレベルの結果を得ることができました。
製造:射出成形は熱可塑性部品の量産に理想的なプロセスです。ただし、部品が“製造性を考慮した設計”になっていることが条件です。部品の性能を正確に予測するには、Altairの複合材料ソリューションを使って構造解析用の正確な材料モデルを作成します。
製造性考慮設計
技術が進歩した現在においては、シミュレーションを用いる最新の手法により、製造に着手する前に射出成形の全工程を細部に至るまで把握することが可能になっています。射出成形でまずクリアしなければならない問題は、「設計どおりのコンポーネントで充填不良が生じないか」という点でしょう。Altairのシミュレーションツールなら、設計者とプロセスエンジニアで協力して充填と冷却のサイクルを試験して問題を解決したり、成形プロセスで起こり得る欠陥の発生状況の予測も可能です。欠陥には、たとえばエアポケットや表面欠陥、厚いリブにおけるヒケなどがあります。他方、部品性能に関しては、ウェルドライン(切り抜き周りやゲート間で樹脂が合流する地点)やそりによって局所的な強度不足が生じると、設計の差し戻しによってコストが膨らむ原因となります。
Altairの複合材料ソリューション
Nolavaのハウジングは短繊維強化熱可塑性プラスチックから成る複合材料で製造されるため、部品内の繊維配向によって材料特性が決まるだけでなく、成形品内のばらつきによって繊維配向が影響を受けるという難点がありました。そこでAltair Multiscale Designer™のマルチスケール解析を用いて、構造応力解析用の材料モデル[2]を作成しました。
性能要件を満たしていない箇所がある場合は、最適化テクノロジーを適用して改善することも可能です。
ステップ1:射出成形シミュレーションを実行し、構造メッシュにマッピングする繊維配向データを取得します。この成形シミュレーションで繊維配向を正確に計算するには、構造メッシュよりもメッシュの密度を上げる必要があります。充填シミュレーションにより、充填時間、温度、発生し得る欠陥(ヒケ、ウェルドライン)、繊維配向を求めます。その後、構造メッシュに繊維配向をマッピングすることで、構造ソルバー用のMultiscale Designerの材料モデルを決定します。
ステップ2:材料特性のモデリング結果を構造解析メッシュにマッピングし、変位、応力、そりの結果を適用します。繊維強化の効果は、そりと変位の結果で顕著に現れます。
ステップ3:正しく組み立てられるように、左右両方のハウジングのそりと収縮が同等になるようにゲート位置を最適化しました。ゲート位置を調整しない場合、ハウジングのつめが正しくはまらないか、耐久力不足でつめが欠けてしまいます。